連載記事3.子供時代の悲劇を経歴に

前回はUnfairという楽曲について語っていただき、今後のコラボ相手との展開の部分から引き続きインタビューをお届けします。
是非(2)と併せてご覧下さい。

以下 中田享(筆者):中  KENGO:K

中: では改めてお話お伺いしていきますね。

K: よろしくお願いします。

中: 早速 前回聞きそびれてしまった質問をさせて下さい。Unfairで共演したFumiyaさんとは今後、共演の機会は増えてくるのでしょうか?

K: はい、実は料理番組を期間限定でYouTubeで一緒に始めるんです。

中: なんと、それはどんなきっかけで?

K: 思いつきで今適当にお答えしたんですけど、やったら面白そうですね。嘘です。
実はPV公開後の1週間後にコラボ曲を配信リリースします。

中: それは本当ですね?

K: はい、これは本当です。
Disappear(ディサピアー)という曲で、完成したのはUnfairよりかは後で、一昨年ぐらいだったかな。未発表でした。リリースするタイミングを待っていました。

中: 確認したところ、Fumiyaさんは既にこの曲をアルバムに入れて配信もされていますね。共同名義だからこそ、しっかりKENGOさん自身でもリリースしたいという想いが?

K: そうですね、UnfairのPVを公開して、この曲をリリースすれば1番聴いてもらいやすいタイミングではあると思いました。Fumiyaくんの楽曲も知らない人に聴いてもらえる良いきっかけだと考えました。

中: KENGOさんなりのPR戦略ということですね。

K: PV一緒に作ってくれてありがとう。という気持ちを仕事面でどう貢献出来るかを考えた時に、これくらいしか浮かばなくて。
僕としてはDisappearのPVも可能なら早く撮りたいところですが、予算的にお互い大変なのでどうだろうって感じですね。

中: とても素晴らしい労いですね。
DisappearのPVを観られる日が来る可能性があるということでよろしいですか?

K: 頑張ります。お互い生きてる内に、そして楽しみに待ってる人も生きてる内に。届けたいですね。

中: 生きてる内にというのはまた表現が謎めいていますね?

K: 自分の大好きな本や映画、ゲーム、アーティストの続編を心待ちにしてたとして、中には自分の寿命の半分以上を要してきたものも存在するんです。
ハリウッド作品とかがわかりやすいでしょうか。今は亡き人たちがその作品のファンだったなら、心から新作を見たかっただろうと。僕自身 楽しみにしている作品が沢山ありますが、生きてる内にそれが公開されるんだろうか、完成するんだろうか、その先にも続編があるなら、と考えてしまいます。
アーティストによってはアルバムとアルバムの間に3年、4年とか普通に待つこともありますし。

中: 凄く共感出来ます。私の好きなシリーズ物の続編が何十年、何年越しで今年制作が決まりました!というのはこの何年かはよくあって、リメイク作品も多かったり。

中: KENGOさんは受け答えが明確で、とても広い考えをお持ちの印象を受けるのですが、インタビューは次にどんな質問が来るかというのは中々想像がつかない場合もあると思います。どれもしっかりとした言葉で尚且つ分かりやすい内容、言葉に重みを感じています。

K: ありがとうございます。真面目に答える努力はしています。悩んだり考えたりすることは決して無駄ではなかったのかもしれません。
中田さんの引き出し方もうまくて、話たいことがすらすら出てくるんです。

中: 恐縮です。そう言って頂けると嬉しいです!話題は戻りますがdisappearという曲は人と人との間の薄いながらも、日常では割と身近にあるもの、そしてサビではどこかそれら自体から離れたいという願望を感じ取りました。

K: 例えば身近にいる人たちは僕がいなくなった時に何も思わないっていうことはまず無いと思うんです。でもそうでない遥か遠い地の人たちからすれば砂浜の砂が大きい波に揺られるくらいのことだったりするんです。
自分がいなくても動き続ける世界が時々 自由で爽快に感じます。自分の人生は自分がいるが為に狭く窮屈な思いをしていることが多々ありますから。

中: サビはどちらかというと個人的な感情がない状態で綴り歌われているんですね。

K: 「いろいろあったんだね、思い返す程に」っていう歌詞があって、実は僕個人 いろいろっていう言葉は自分には理解し切れないものやそれ以上掘り下げたく無いことに対してまとめたり、適当な返事の時に使われやすいと感じています。
「いろいろあるんですね〜」ってめっちゃ適当じゃないですか。
それを敢えて歌詞に使っています。

中: その歌詞からサビにつながる。ということは曲の主人公はかなりの時間を要して、そういう考えに至るヒストリーがあったということですね?

K: そうです。血が繋がっているからとか、長く一緒にいるからとか、そういうのってあんまり関係ないと僕は感じてきました。
事実、生まれた時から共に生きてきた数少ない家族はもういませんし、親戚なんてのもいません。
天涯孤独になっても、血のつながり以上のものを築くことはその時々で可能だと周りの人たちに教えられてきました。それが生涯続くかは別物ですが。

中: 天涯孤独。中々強いワードですね。KENGOさんは孤独というネガティブに捉えられるワードを音楽を通して巧みに武器、魅力にしている強いイメージがあります。今回の依頼にあたって資料や音源を聴かせて頂いた時の第一印象が正にそれでした。一匹狼のイメージです。
よく言われませんか?

K: 言われます。こないだ作曲家の子にも言われたんです。でも自分からそういうイメージというかキャラクターを作ってるつもりは全くないんです。沢山の人と仕事はしたいですし、共演もしたいんです。多分、相手からすれば絡みにくい、めんどくさそうというのは多少なりともあると思いますね。
僕は自分のやりたいことをやっているだけなので、それに伴うイメージが一匹狼なのであれば、そういう気質ではあるのかなと思います。

中: ありのままでいるというのがとても難しく、アーティストはイメージづくりに大変苦労される方も多いのではないかと、ご自分の経験や現状を全面に打ち出すことへの抵抗は最初からなかったのでしょうか?

K: 勿論ありました。ただ自分自身のこれまでを反映させて作っていた曲がほとんどだったので、そもそもキャラクター自体を作り込んで演じることが間違いだと早い時点で気付いたんです。

中: KENGOさん自身がエンタメや作品として成立すると?

K: 完璧なものではないですが。少からず幼少期から今までのことを乗り越えてきたのは自分の人生が落ち込んだ時に、これをいつか見せ物や映画にすればいいと少し変わった前向きさを持っていたのもあります。
1人の子どもに訪れた悲劇を大人になった時 経歴にすればいいと考えていたんです。

中: そういった発想の転換は子ども時代には難しいとも思いますが?

K: 変ですよね。そういうものの積み重ねで数ある芸術の中から偶然歌を選んだのではないかと思います。

中: プロフィールにも書かれているトラウマティックや双極性障害もその中のひとつ?

K: そうです。6年前ぐらいに診断書に書かれて知った時には正直凄く嫌でした。自分と向き合って過去を振り返るほどに小さい頃からずっと数々の症状に苦しんでいたなって理解してきたんです。そういうものを知らなくて病院に行こうとかっていう選択肢もなかったですし、薬も飲んでいませんでした。まさか自分がってある時までは思っていました。
そのまま何も気付かずに生きていたら多分こんなに作品も出せず今頃死んでいたと思います。

中: 幼少期からの環境によって作られてしまったものでもあるということなんですね。
海外のアーティストは患っている精神的な病に関して告白して発信しているのをニュースでも見かけますが、日本と比べるとメンタルケアの環境が全く違いますよね。

K: 全くその通りです。

中: 日本で生活、活動しているKENGOさんからしたら、告白することで肩身が狭く理解を得られないかもしれないというリスクもあったのでは?

K: 不安も多少なりともありましたが、正直プラスになることはないと踏んでいました。それまで近寄りがたかったイメージの自分が更にそのイメージを強めてしまうのではないか、イベントやメディアに起用されるチャンスが減るのではないか。ネガティブな人間だと避けられるのではないかと思ったりもしました。

中: それだけメンタル面の病気はまだまだ私たちからすると理解度が低いというか、どうしたらいいかわからないというのが正直なところなのかもしれません。

K: 世の中には沢山いるんです。同じように避けられていたり、自分を認められない本人や家族が。昔は世界でも精神的な病気は強引な治療方法で実験体にされたり、凄く悲惨な歴史があります。日本はもっと進まないと、今の世の中の人々と環境がかけ離れていくばかりだと思います。

中: ネガティブからは避けたい人がほとんどですが、今の社会では避けられないものも沢山ありますね。選択肢を知るだけでも変わってくるというところでしょうか。

K: 僕が公表して作品を出し続ける限りは避難場所や雨宿りの場所、さまざまな例えになれるものがひとつずつでも増えていきます。きっと同じような役割のアーティストは音楽に関わらずこれから絶対 日本でも更に増えてくるのは目に見えています。

中: 作品を作ることが何よりも前向きな行動であり、周りへの感謝や希望となるメッセージであると。

K: 知名度もなく、僕のことを知らない人がほとんどですがここに残すことで、偶然出会う人もいるかもしれません。そして当事者ではない人にもただ知ってもらうだけでいいんです。完璧な理解を求めたり押し付けるつもりはありません。それはあまりに難しいことでもありますし、つらいことです。
それでも今後の可能性を信じています。

(次回に続く)

追記
正直ここまでのインタビューでこれ程までのエピソードを聞けるとは思っておらず、考える程に筆者は曲を聴きながら感情移入してしまい感極まる瞬間が何度もあった。

リスクを恐れずに突き進む姿勢はかつて彼が最初に出したアルバムのタイトル「Lights In Darkness」を連想させる。これは「真っ暗闇の中にある光たち」という意味を持つ。
正に彼は己の中に漆黒の闇を纏いながらも同時に数多の光を生み出す力を兼ね備えているのだ。彼の内面そのものが作品であるというのも確かだ。
筆者の中でLights In Darknessというアルバムタイトルの意味を直接ではないながらも彼のヒストリーを通して導き出すことが出来たのであった。
         インタビュー:中田享

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